2月14日、1999
讀賣新聞社会部「弁護士」取材班御中
荒井良明
特集「弁護士7」に対する緊急公開質問状
後掲の質問状を用意し、まさに送らんとしていたいたところ、2月13日貴紙朝刊に「弁護士7」が掲載されました。その中の次の文言が小生を激怒させました。<私たちの信頼に背を向けてしまった一部の弁護士の姿を、先月、六回にわたって連載で紹介した。>
緊急質問
貴紙は、貴取材班は、安田好弘弁護士が「私たちの信頼に背を向けてしてしまった一部の弁護士」のひとりと考えているわけですね。
これは、イエス・ノーで答えられる問題ですので、うじゃうじゃゴタクを並べる必要はありません。簡潔に答えてください。
安田くんも<先月、六回にわたって連載で紹介>された弁護士のひとりですから、論理的必然性の導くところに従えば、貴取材班は安田くんを「私たちの信頼に背を向けてしまてしまった一部の弁護士」の中に数えていることになります。そのような認識が本当にあるのですか。
<取材班としましては、死刑廃止運動や松本智津夫被告公判などに真摯に取り組む安田弁護士について、日ごろから理解をもって注視して参りました。>と先にいただいた回答中にありましたが、あれはウソですか。
あなた方は社会部所属の司法記者でしょう。法学部を出ているか、そうでなくても法律については造詣が深い方々でしょう。足を使った取材もしているんでしょう。そうしたら、月刊『現代』で横浜弁護士会所属の弁護士(作家)の先生が書いているように、彼が「悪徳弁護士のメルクマール」(金に対する執着)を持たぬどころか、清廉で清貧に甘んじている(いや清貧に安んじている)人間だってわかっているでしょうに。
法律に多少とも理解があるなら、犯罪容疑者のそして刑事被告人の「推定無罪」の原則を知っているでしょう。<死刑廃止運動や松本智津夫被告公判などに真摯に取り組む安田弁護士について、日ごろから理解をもって注視して>きたあなた方が、単に逮捕され、起訴されたからという理由で、彼を<私たちの信頼に背を向けてしまった>弁護士と、社会の公器である新聞紙上で誹謗し、中傷し、恬として恥じないのですか。そうであるならば、小生は貴取材班と貴社会部、貴新聞社に対する戦闘を開始します。
安田好弘弁護士逮捕を報じた記事で日刊スポーツは、安田弁護士に「『日本弁護士会の宝』と言われる」という形容語句を冠していましたが、安田くんはひとり「日本弁護士会の宝」であるのみならず、虐げられた人々や、社会の底辺にいる人々、犯罪に走ってしまった人々、死刑の恐怖に打ち震えている人々、そして多くの民衆の宝なのですから、われらの宝を誹謗し、中傷し、おとしめる不逞のマスコミには、貴紙を含め断固とした鉄槌を加えて行くことを宣言します。
「無冠の帝王」という言葉をご存じでしょう。ジャーナリストとりわけ新聞記者のことを指す言葉です。三省堂『大辞林』によれば「特別な地位はないが強い力のある者または権力に屈しない者の意で」そのように言われるのだそうです。
あなた方は安田好弘弁護士が「私たちの信頼に背を向けてしまった」弁護士のひとりだと、貴紙読者に印象づける「強い力のある者」です。そして、その力を「日本弁護士会の宝」、われら庶民の宝を貶めるために用いているのです。『大辞林』の前者の意味では「無冠の帝王」ですが、後者の意味ではそうではありません。凡百の悪徳弁護士と、われらが安さんを一緒にするという愚を犯すあなた方は、権力のお友達ですか。
ジャーナリストを志したときの、あるいは讀賣新聞に入社したときの「高い志を、いつまで持ち続けられるかが分かれ目になる(貴取材班の『弁護士7』より)」のですよ。再度問います。貴取材班は、本当に安田好弘弁護士が「私たちの信頼に背を向けてしまてしまった一部の弁護士」のひとりと考えていますか。
これは、イエス・ノーで答えられる問題ですので、うじゃうじゃゴタクを並べる必要はありません。簡潔に答えてください。
なお、この質問には二月二十一日までにお答えくださるようお願いいたします。
2月14日、1999
讀賣新聞社会部「弁護士」取材班御中
荒井良明
特集「弁護士」に対する再質問状過日は小生の公開質問状にご回答くださりありがとうございました。
回答に対する概括的な所見を述べさせていただければ、これがもし解答だったら(つまり試験の答案だとすれば)限りなく零点に近いものであったと言えましょう。
すなわち、答え方が違う、論証なき一方的な立論、答えたくない(または答えられない)質問には答えない、等によりとても及第点のもらえるものではありませんでした。
立派な最高学府をご卒業なさり、難関の讀賣新聞社入社試験を突破され、かつOJTも受けてきた貴取材班の方々が真摯にお答えになれば、先の回答のような不合格答案はお書きにならないはずです。どうぞ、本状には真摯に、真剣にご回答くださいますようお願い申し上げます。
以下の説明をよくお読みになった上で、先の質問3,4,5に再度お答えください。
さて、質問1,2はつぎのようなものでした。
1 <安田弁護士は今、「自分が提案したことと、社長が実行したことは違う」と無実を主張している。>と、貴紙記事にありますが、これは安田弁護士の弁護団あるいは安田弁護士の所属事務所等、安田弁護士側の取材でわかった事実でしょうか?
2 1の質問の答がNoであるとすれば、それは警察ないし検察からの情報でしょうか?
これに対する貴取材班の答えは、<取材源に関することですので、お答え致しかねます。どうぞご了承下さい>でありました。
一見満点答案のように見えますが、そうではありませんね。安田弁護団も「安田弁護士は有限会社スンーズエンタープライズの取締役に対し、上記のような(注:違法な――引用者)指示を与えた事実はありません」と言っています。いつでもひとつ覚えの「取材源の秘匿」と言えばいいもんじゃないでしょう。
この場合は、信頼できるニュースソースは安田(弁護団)側と警察・検察側の二つしかないんだから、「両者に取材した結果、争いのない事実です」というのが正しい答え。取材源の秘匿という言葉は、もっと複雑なとき(警察・検察情報の垂れ流しのとか)のときに使いましょう。(以上教授料は無料です)。
次に、前回質問の3です。
<「自分が提案したことと、社長が実行したことは違う」というのが貴紙記事中の唯一の安田弁護士の反論ですが、一方の当事者・住管機構の中坊公平社長については「安田弁護士は依頼者のためを考え、一線を越えたのだろう。弁護士は依頼者と同じ目線で見ないといけない。しかし、依頼者と同じ気持ちになる危険は避けなければならない」「40年弁護士をやってきて、この事件は非常に苦しかった。でも、弁護士であるからといってかばってはならない」と多くの字数を与えて主張させています。
こういう態度は、ジャーナリズムとしてフェアでないと思いますが、どうでしょうか。
告発側の主張には多くの字数を与え、無罪主張をしている被告側の反論にはほんの少しの字数しか与えない。
この貴紙の姿勢をフェアでないと思いますか、思いませんか?>
これに対する貴取材班の答は(「3、4、5について」となっていますが、3だけへの答でしかない)
<取材班としましては、死刑廃止運動や松本智津夫被告公判などに真摯に取り組む安田弁護士について、日ごろから理解をもって注視して参りました。紙面に掲載された字数が少なかったからといって、その人の主張を軽んじているというようなことはありません。>
一方的な言い切り、宣言の典型。官僚たちがこのような答え方をするとき、新聞記者が「官僚的」と論難する典型的な答え方のひとつ。
<紙面に掲載された字数が少な>いにもかかわらず、<その人の主張を軽んじているというようなことは>ないという結論は述べてあるが、その理由が述べられていない。「軽んじていない」ということを裏付ける何の論証もない。こんな答を答えて恬然としているようでは、大学入試小論文にさえ通りません。
一度ご出身大学の小論文入試を受けてみることをお勧めします。この調子じゃ間違いなく不合格ですよ。
安田弁護士が、留置所(拘置所)にいて反論できないのをいいことに、一方の当事者に多くの字数を与えて安田批判をさせるというやりかたがフェアでないだろうと、聞いているんですよ。こういう微妙な問題(あれで逮捕されるなら、日本中の弁護士の半分は逮捕・起訴されちゃうね、と多くの弁護士が言っている)、違法か否かに関して議論がある問題で、中坊公平という「国民的英雄」(宮崎学氏は「中坊黄門」と言っている)の口から、「一線を越えたのだろう」と語らせ、あたかも安田弁護士が違法行為を行ったかのように、読者をして思わしむるやり方がアンフェアでしょう、と言っているのですよ。
検察側はこう主張している、被告はこう反論している、と検察側主張と被告側主張を同じように報じるのがフェアでしょう。そこで検察側主張の補強のために、総理大臣になってほしい人No.1(だったかな)の中坊公平を(紙面に)連れてきて、検察側主張に沿ったことをたくさん語らせるのはジャーナリズムが検察の走狗になっている状態でしょう、って言っているんですよ。
中坊さんが言うんなら、きっと一線を越えたのだろうと思うパンピー(一般ピープル)が多い(ほんとに多いのです)ことを計算に入れたミスリーデイングな記事を書きなさんなよ、と言っているのですよ。以上を踏まえて、再度同じ質問をします。先に引用した前回の質問3にきちんと答えてください。これほど親切に懇切丁寧に質問の意図を説明したんだから、ちゃんと答えてよねー。
次に前回の質問4。
中坊氏は「一線を越えたのだろう。」と記事中で語っていますが、「一線を越えた」かどうかがまさにここでは問題になっているのです。逮捕容疑、起訴事実について争いある案件について、およそ弁護士たるものが推測で、被疑者・被告の言い分を聞きもしないで「一線を越えた」と認定するなり「一線を越えたのだろう。」との見解を公にすること自体、弁護士としての資格を疑わしむるものであると思いますが、貴紙はこのことについてどのように考えますか(貴紙の記事の流れから言うと、中坊氏の言い分に肯定的であるように読めます)。
貴取材班の答
【3、4、5について】
・取材班としましては、死刑廃止運動や松本智津夫被告公判などに真摯に取り組む安田弁護士について、日ごろから理解をもって注視して参りました。
紙面に掲載された字数が少なかったからといって、その人の主張を軽んじているというようなことはありません。
今後とも、安田弁護士の公判や、「不当逮捕」を訴えて救援活動に乗り出しておられる方々についても、注目して取材を続行する所存です。
まったく答になっていないことは、ご自分でもおわかりになりますね。小生はここで、まさに「弁護士取材班」の得意中の得意、自家薬老籠中の問題、弁護士はいかにあるべきかということについて質問しているんです。
いやしくも弁護士たるものが、新聞という公器において、そもそも違法性に疑義がある問題について、被疑者から話を聞いたわけでもなく、「一線を越えた」と認定するなり「一線を越えたのだろう。」と認定をしていいものか。それは弁護士道に悖ることではないのか。このように質問しているのですよ。
あなた方の得意科目「あるべき弁護士について」の質問です。どうして回答を避けるのですか。真正面から答えてください。
さらに前回質問の5。
「死刑廃止運動に心血を注ぐ運動家は、およそ犯罪とは無縁に思えた。それだけに弁護士の間の衝撃も大きかった。」これが貴紙の記事中の表現ですが、実際には、多くの弁護士が「不当逮捕」を訴えて救援活動に乗り出しているというのが現実です。
この現実を無視した「弁護士の間の衝撃も大きかった」という書き方は事実を歪めて報道するものだとは思いませんか?
この質問に対しても、先の回答では、貴取材班は全く答えていません。<今後とも、安田弁護士の公判や、「不当逮捕」を訴えて救援活動に乗り出しておられる方々についても、注目して取材を続行する所存です。>だって、――おいおい、答える場面で決意を述べてどうするんだよ。
ここで、前回質問を補足します。貴紙記事の「死刑廃止運動に心血を注ぐ運動家は、およそ犯罪とは無縁に思えた。それだけに弁護士の間の衝撃も大きかった。」の部分をよりわかりやすくするためには、次のように文言を補うべきでしょう。
「死刑廃止運動に心血を注ぐ運動家は、およそ犯罪とは無縁に思えた。それだけに(犯罪とは無縁と思われた運動家が犯罪を犯しただけに)弁護士の間の衝撃も大きかった。」
普通の読解力があれば、「それだけに」の内容が、「そんな人が犯罪を犯しただけに」と読めます。
そして、「弁護士の間の衝撃」も、「弁護士の間の(死刑廃止運動に心血を注ぐ運動家の弁護士が、実は裏では悪徳弁護士だった、あるいは悪徳弁護士まがいのことをやっていたのかという)衝撃も大きかった」ということになります。
実際安田弁護士逮捕で弁護士の間に衝撃が走ったことは確かです。(内藤隆弁護士は「安田弁護士の逮捕は弁護士会に驚愕をもたらした」と言っている)。
だが、それは、貴紙前記記事のサジェストする、「死刑廃止運動に心血を注ぐ運動家の弁護士が、実は裏では悪徳弁護士だった、あるいは悪徳弁護士まがいのことをやっていたのか」という衝撃ではなく、権力はついに安田を標的にしてきたかという衝撃であり、驚愕でした。
だからこそ、十二月十六日の「不当逮捕に抗議する緊急集会」は「集会準備期間は数日間であったにもかかわらず」五百名以上(うち弁護士は百四十名以上)の参加者をみる「前例のない盛り上がりのある集会だった」のです。
この集会で「安田弁護士の早期釈放を求める署名活動が提起され、これもわずか六日間で合計2956名(内、弁護士380名)」という多数を数えた。「現在は第二次の早期釈放を求める弁護士署名活動を行い、一月二二日現在、その総数は約1300名に達している。個別事件について、弁護士の賛同署名が右の数字に上ったことはないように思われる。これは本件の不当性が弁護士の中で認識されていることを意味するものと思われる。」
(以上、集会と署名に関する引用は、内藤隆弁護士「弁護士の支援活動」インパクト出版『安田弁護士不当逮捕を考える』インパクション112、より)。
以上の説明を得てもなお、前回質問5に引用した記事はミスリーディングだったと認めるに吝かなのでしょうか。
<今後とも、安田弁護士の公判や、「不当逮捕」を訴えて救援活動に乗り出しておられる方々についても、注目して取材を続行する所存です。>と、貴取材班がいくら言ったところで、それが記事に反映されなければ意味がないのですよ。
再度前回質問の5にお答えいただくようにお願いします。
「死刑廃止運動に心血を注ぐ運動家は、およそ犯罪とは無縁に思えた。それだけに弁護士の間の衝撃も大きかった。」これが貴紙の記事中の表現ですが、実際には、多くの弁護士が「不当逮捕」を訴えて救援活動に乗り出しているというのが現実です。この現実を無視した「弁護士の間の衝撃も大きかった」という書き方は事実を歪めて報道するものだとは思いませんか?
以上の前回質問に対する再質問のついては、二月末日までに回答をくださるようお願いいたします。