署名用紙の内容についての意見とそれへの返信

先日、対馬さんから署名用紙をお送りいただいた黒川と申します。

私はアムネスティの会員で、安田弁護士については知っていました。 死刑制度に関するシンポジウムに参加した際、話を聞いたこともあり、12月に逮捕された時は、かなり驚きました。 その後いろいろな情報を知って、今は安田さんの釈放を願っていますが、署名用紙の内容に関して 気になる点がありましたので、メールをお送りすることにしました。

安田さんの存在を今回の逮捕報道で初めて知った人にとって、署名用紙の内容はすぐには共感できるものではないと思います。

まず、知らせなくてはいけないのは今回の容疑の不当性だと思いますが、 「なぜ今回の逮捕を不当逮捕と認識しているのか」に関する説明が十分ではないと思います。

「保釈請求却下の理由は”証拠隠滅の恐れ”だが、安田さんは証拠隠滅をするような人ではありません」 と言われても、全く知らない人物をいきなり信じて欲しいと言われているようで、説得力に欠けると思うのです。

今回の逮捕の問題性を多くの人に知ってもらうには、「安田さんが死刑廃止運動やオウム真理教の主任弁護士だったから逮捕された」と主張するよりも、 逮捕の容疑自体がいかにおかしいものかということを前面に出したほうが、共感を得やすいのではないかと思います(というか私は絶対そうだと思います。実際私の周りの人にこの署名用紙の内容でお願いすることは難しそうなのです)。

今回の逮捕に関する私の認識を簡単に書くと、 「容疑は  --安田さんはある会社の顧問弁護士をしていて、その会社が利益隠しをしていたが、それを指示したのが安田さんだった---(とその会社の人は言っている、でも安田さんは否定している)
しかし、これまでは企業関係者が利益を隠して逮捕されたことはあったが、 それに関連して顧問弁護士が逮捕されることはなかった(これは正しいでしょうか?)。
なぜなら、それを弁護士が指示したのか、自分たちが自発的にやったのか、 証明するのはかなり困難だからである。
もし、企業側が自分たちだけでやった利益隠しを『弁護士に指示されたからやった』と言って、 その主張が裁判で受け入れられ、弁護士が有罪になったら ほとんどの弁護士が逮捕されてしまう可能性がある。
弁護士がたとえ指示していなくても、その証言一つで有罪になってしまったら、弁護士の活動ができなくなるので これまではこうした事件で弁護士は逮捕されなかった。 にもかかわらず今回、安田さんが逮捕されたのは問題である。」

というふうに認識しています(間違っていたら教えてください!) 。

これが2/5に土屋公献弁護士から全国の弁護士に向けて出された 「安田弁護士の弁護人への就任のお願い」の1枚目、 3の(1) 「弁護士が、債務超過状態にあり強制執行が予想される不動産所有会社の経営について  法的助言を求められた場合、この弁護士はどこまでの法的助言を行うことができるのかという、重大かつ普遍的な問題が本件事件の土台となっている」と重なるのかな、と思っています。 (これについては新聞などのマスコミはもちろん安田さん支援のホームページにもあまり書かれていないようですが、どうなのでしょうか?)

今回の逮捕が「政治的な意図があるもの」と主張する前に、 容疑自体のおかしさを説明するような内容にしていただけたら、署名集めが楽に(?)できると思い、 また、多くの人にこの問題を認識してもらえるのではないかと思い、 ここに書きました。

長い文章で、ずばずばと言いたいことを言っているようで申し訳ありません。 急いでお送りするので、失礼な言い回しもあるかと思います。 認識不足や知識不足も多々あるかと思いますが、どうぞご検討くださいますよう、お願いいたします。

※1)「住管が告発した他の弁護士は在宅起訴だった」とありますが、どのような容疑だったのでしょうか。 ※2)これまで「利益隠しを指示した」という容疑で逮捕された弁護士はいなかったのでしょうか。

お時間がもしあれば、ホームページ上でお答えを戴けると幸いです。

黒川 ○○


黒川○○様

 署名用紙の内容についての貴重なご意見ありがとうございました。ご指摘の点は、署名用紙において不当逮捕の理由が十分でなく、実証的な根拠がなければ安田弁護士を知らない人に広げていくことができない、ということだと思います。まったくもっともで、支援の会の中でも同じような意見があります。

 ただ、今回の署名用紙の文面に至ったのは、次のような理由からでした。

  1. 現実に起訴され刑事裁判が進んでいる以上、事案の内容について支援の会が今の段階で積極的に認定することは難しい。

  2. 強制執行妨害罪という逮捕容疑は明らかにされているが、それ以上に、具体的に安田さんのどのような行為について強制執行妨害罪を適用しようとしているのか、第一回公判での検察側の主張を待つ必要がある。

  3. また、逮捕の政治的背景を全面に押し出すよりも、むしろ、保釈請求に活動の焦点をあてて、「この被疑事実、この事案で身柄を釈放しないのはあまりにもおかしくないか?」という基調の方が、より多くの人の参加を要請できるのではないか。

 つまり、身柄を拘束する理由がないのに、身柄を拘束するのは不当だという点に重点をおいたわけです。しかし、ストレートに伝わりにくい内容であることは事実です。特に、残念なことに、法律に反して、日本社会では被疑者は身柄拘束されるのが当たり前のように誤解されているため、かえってこの主張はわかりにくかったかもしれません。この点、黒川さんのご指摘はするどく、また正当だと思います。

 黒川さんの不当逮捕の認識も正当だと思います。つまり、もう一度まとめてみると次のようになると思います。

  1. これまでの顧問弁護士に対する警察・検察の対応の一線を越えている。(強制執行妨害事案で知られている範囲では、強制執行妨害罪のみで逮捕・起訴された弁護士は、安田弁護士以外にはいない。)

  2. 今回の容疑=検察側の一方的主張が認められれば、債務超過状態にあり強制執行が予想される不動産所有会社の経営について法的助言を求められた場合、実質的に弁護士は法的助言が困難になる。

  3. 民事上の債権回収手段が駆使されずに、刑事手続きが安易に発動されていいのか?

 まさに、黒川さんが言われるように、多くの人に、まず不当逮捕であることを説得的に語るために、これらの点をわかりやすく伝えていく必要があります。

 と同時に、今後は今回の不当性をより大きい文脈で訴えていく必要もあると思っています。いくつかのメディアでは、安田支援の運動は「弁護士の不逮捕特権を主張するもの」と評されていますが、今回の逮捕の不当性は、弁護士業務に対する「一線を越えた」不当な介入であると共に、やはり「安田さんであるがゆえの」逮捕だという点も大きいと思います。なぜここまで警察・検察は無理をしてくるのか。また、住管機構が逮捕直後に安田さん個人を告発していますが、逮捕直後の告発は意味がありませんし、別の弁護士の事件のときは逮捕直後も住管は告発していません。そこに「安田さんだから」の恣意性が垣間見えます。
 これについては、一方的なスローガンにならないよう気をつけつつ、しかも多くの人に伝わる言葉で語るよう努力していきたいと思います。

 最後に、黒川さんの質問についてわかる範囲で簡単にお答えします。

1)住管が告発した弁護士の罪名は、競売入札妨害罪と公正証書原本不実記載・同行使罪です。どちらの容疑も、具体的に弁護士が直接関与(実行)したとして、名古屋地裁で有罪判決になっています。

2)住専の不良債権関連で逮捕された弁護士は、私が知るかぎり住管が告発した弁護士ともう一人住管が告発していない弁護士(事件については告発している)の計二人います。二人とも「公正証書原本不実記載・同行使罪」がメインとなっており、「(利益隠しのための)ウソの登記を行った」という容疑です。つまり、「容疑=検察側の一方的主張」によれば、登記という外形的事実が残っていて、また弁護士が直接関与している事案になります。その意味で純粋に「指示」だけで逮捕・起訴された弁護士はいないと言ってもいいと思います。(ただ「指示」にもいろいろあるので、どのような「指示」を検察側が主張してくるのか、少し待つ必要があると思います。なお、念のために言えば、安田さんの場合まさにこの「指示」があったのかが、大きな争点になります。)

 第一回公判が3月3日にありますが、それを受けて、黒川さんのご意見も参考にして、多くの人に今回の問題の不当性をわかりやすく、かつ実証的に訴えることができるパンフレットのようなものを作成する予定です。

 なお、現在発売中の雑誌インパクションが今回の不当逮捕の特集をしており、こちらもどうぞご参照ください。雑誌発行元の連絡先は以下の通りです。

 雑誌発行元=インパクト出版会
 インタネットアドレス:impact@jca.ax.apc.org
 ファクス:03-3818-8676

 貴重なご意見ありがとうございました。どうか今後ともよろしくお願いします。

 安田さんを支援する会・東京
 岩井信