平成一一年(く)第二二二号
決 定
被 告 人 安 田 好 弘
右の者に対する強制執行妨害被告事件について、平成一一年七月五日東京地方裁判所がした保釈許可決定に対し、検察官から抗告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主 文
原決定を取り消す。
本件保釈請求を却下する。
理 由
本件抗告の趣旨は、検察官宇川春彦作成の「抗告及び裁判の執行停止申立書」に記載されているとおりであるが、要するに、被告人には保釈を許すべき理由がないことが明らかであるのに、保釈を許可した原決定はその判断を誤っているから、これを取り消した上、本件保釈請求を却下する旨の裁判を求めるというのである。
そこで、検討するに、本件勾留の基礎となっている公訴事実は、弁護士である被告人が、有限会社スンーズエンタープライズの取締役らと共謀の上、同会杜が所有する建物の賃借人らに対して有している賃料債権等に対する強制執行を免れる目的で、実体のない会社二社の銀行預金口座を開設した上、右二社が賃貸人の地位を取得したかのように装って、以後賃料等を右預金口座に振り込むよう賃借人らに指示し、よって、賃借人らをして二四九回にわたり、合計二億円余の賃料等を右預金口座に振込入金させ、強制執行を免れる目的で財産を隠匿したというものである。このような本件事案の性質に加え、本件においては、その経緯や特に被告人と関係者との連絡、指示の状況等に関する諸事情が犯罪の成否の判断に重要な位置を占めるとうかがわれるところ、これらの事情に関し被告人と関係者らとの間にはその供述内容に相当の食い違いがあるとみられること、検察官申請証人三名(いずれもスンーズエンタープライズの債権者の関係者)の取調べを終え、次いで、スンーズエンタープライズの経理担当者であった者の証人尋問が主尋問、反対尋問を含め六回にわたり行われ、なお続行中であるが、右諸事情の認定に当たりとりわけ重要な位置を占めるとうかがわれる本件の共犯者らの証人尋問をなお今後に予定している審理状況にあること等にも照らすと、原決定が「指定条件」として課している条件を付した上であっても、現段階で被告人を釈放すると、関係者に働きかけるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由は依然存在するというべきである。なお、弁護人らが前記経理担当者に対する証人尋問の内容等に関連してるる主張する諸点にかんがみ検討しても、この判断は左右されない。したがって、本件については被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるといわざるを得ない。
また、本件罪の法定刑、これまでの勾留の期間や、勾留の継続が被告人やその家族、その所属する法律事務所の運営に種々の不利益をもたらしているとうかがわれること等の諸事情を考慮しても、裁量による保釈を相当とする事情があるとは認めることができない。さらに、以上説示の諸事情を総合すれば、被告人の勾留が刑訴法九一条所定の「不当に長くなったとき」に該当するとも認められない。
以上の次第であるから、被告人に対して保釈を許可した原決定は失当であり、本件抗告は理由があるから、刑訴法四二六条二項により、原決定を取り消して、本件保釈請求を却下することとし、主文のとおり決定する。
平成一一年七月五日
東京高等裁判所第一刑事部
裁判長裁判官 村 上 光 鵄
裁判官 木 口 信 之
裁判官 杉 山 愼 治
右は謄本である
平成一一年七月六日
東京高等裁判所第一刑事部
裁判所書記官中里功治