冒頭陳述要旨   強制執行妨害                 安 田 好 弘                  記 第一 被告人の身上、経歴等  被告人は、昭和二二年兵庫県出石郡で出生し、昭和五〇年一橋大学法 学部を卒業後、昭和五二年司法試験に合格し、司法修習生を経て、昭和 五五年弁護士登録され、東京第二弁護士会(ママ)に所属し、東京都港 区赤坂二丁目一四番一三号シャトレ赤坂所在の港合同法律事務所におい て、弁護士として執務している。 第二 関係会社の概要  一 有限会社スンーズエンタープライズ  1 有限会社スンーズエンタープライズの設立経緯、業務内容、業績 の推移等  有限会社スンーズエンタープライズ(平成七年九月二〇日、「有限会 社スンーズコーポレーション東京リミテッド」に商号変更。以下、変更 の前後を通して「スンーズ」という。)は、S.C.ことS.C.が、昭和四一 年一一月二五日、家庭電気製品及びその他弱電製品の輸出並びに販売等 を目的として、東京都港区麻布今井町三四番地(現在の同区六本木四丁 目一番二号)に本店を置いて設立した有限会社であり、当初は米軍相手 の店鋪を経営し、業績が順調に伸びたことから、昭和五二年二月二二 日、不動産の販売、仲介、賃貸及び管理並びにホテルの経営等を目的に 加え、昭和六〇年ころ以後海外に進出し、香港、中国、シンガポール、 米国等において賃貸ビルを購入しあるいはホテルを経営し、平成元年こ ろには、国内に約三〇物件、海外に六物件を所有していた。  しかし、バブル経済の崩壊後、スンーズの業績は悪化の一途をたど り、平成五年度(平成四年四月から平成五年三月)は約一三七億円の債 務超過となり、同年度の営業損失額は約二億四、〇〇〇万円、当期損失 額は約四億七、五〇〇万円、当期未処理損失額は約一三七億二、一〇〇 万円に達し、借入金の残高も約八二九億円に上った。  スンーズは、設立以来S.C.が取締役を務め、その経営に当たってい た。平成五年当時、スンーズには、従業員としてS.N.、I.K.、S.Iら約一 〇名が働いていた。  2 スンーズの主な所有物件の概要  スンーズが平成五年度に所有していた不動産のうち、主な物件に対す る担保設定状況等は次のとおりである。  (一) サンハイツ元麻布  サンハイツ元麻布は東京都港区元麻布三丁目四番三八号に所在する七 階建ての賃貸ビルであり、平成五年当時の建物及び敷地の固定資産評価 額は約四億九、五〇〇万円である。その建物及び敷地には、昭和五九年 三和ビジネスクレジット株式会社が被担保債権を一三億円とする抵当権 を設定していたが、同社は平成五年一〇月二七日東京地方裁判所に競売 申立てを行い、同月二九日競売開始決定を受けるとともに、同日同裁判 所にサンハイツ元麻布の賃借人に対する賃料債権の差押命令を申し立 て、同裁判所は、同年一一月二日、スンーズに対し賃料の取立てその他 の処分を禁ずるとともに、賃借人に対してスンーズへの賃料支払を禁ず る旨の差押命令を発した。  (二) 麻布ガーデンハウス  麻布ガーデンハウスは同区元麻布三丁目八番六号に所在する地下一階 地上三階建ての賃貸ビルであり、平成五年当時の建物及び敷地の固定資 産評価額は約三九億七、七〇〇万円である。その建物及び敷地には平成 元年住商リース株式会社が極度額一〇億円の一番根抵当権を、株式会社 住総が極度額三五億円の二番根抵当権をそれぞれ設定しており、そのう ち二番根抵当権は平成八年一〇月一日株式会社住宅金融債権管理機構 (以下「住管機構」という。)に被担保債権が譲渡されたことに伴い、 住管機構に移転した。  (三) 白金台サンプラザ  白金台サンプラザは同区白金台五丁目一八番九号に所在する地下一階 地上一一階建ての賃貸ビルであり、平成五年当時の建物及び敷地の固定 資産評価額は約六三億五〇〇万円である。その建物及び敷地には平成元 年日本住宅金融株式会社(以下「日住金」という。)が極度額一〇〇億 円の根抵当権を設定し、同根抵当権は平成八年一〇月一日住管機構に被 担保債権が譲渡されたことに伴い、住管機構に移転した。  二 有限会社エービーシーエンタープライズ  有限会社エービーシーエンタープライズ(平成七年九月二〇日、「有 限会社エンタープライズジャパンリミテッド」に商号変更、以下、変更 の前後を通して「エービーシー」という。)は、昭和五六年二月一〇 日、S.C.らが、不動産の売買及び管理等を目的として、東京都港区麻布 十番に本店を置いて設立した有限会社エスエスコーポレーションを前身 とし、長らく事業活動を行っておらず、平成五年一月二七日には、S.C. が取締役を辞任し、その代わりに長男S.N.が取締役に就任したこと、商 号を有限会社エービーシーエンタープライズに変更したことなどの登記 がなされたが、右変更登記後も事業活動を行っていなかった。  三 有限会社ワイドトレジャー  有限会社ワイドトレジャー(以下「ワイドトレジャー」という。) は、平成五年六月一日、表向きは不動産の賃貸及び管理等を目的とし、 東京都目黒区目黒一丁目三番一六号プレジデント目黒ハイツ六〇一号室 に本店を置き、S.N.を取締役として設立された会社であるが、実際に は、スンーズと賃貸人との間に介在させるダミー会社として利用する目 的で設立されたものであり、設立後も事業活動を行っていなかった。 第三 共犯者の経歴及びスンーズとの関係  一 S.C.の経歴等  S.C.は、昭和一〇年一〇月一一日東京都港区内で生まれたシンガポー ル国籍を有する者で、昭和四一年一一月スンーズを設立し、以来、取締 役としてスンーズの経営に当たっていた。  二 S.N.の経歴等  S.N.は、昭和三五年一一月三日S.C.の長男として東京都港区内で生ま れ、昭和六三年一一月九日日本に帰化し、平成元年ころからスンーズの 従業員としてS.C.を補佐し、主として外部との交渉に当たっていた。  三 I.K.の経歴等  I.K.(以下「I.」という。)は、昭和三六年四月三井信託銀行株式会 社(以下「三井信託銀行」という。)に入社し、平成元年五月取引先で あったスンーズに出向し、銀行を定年退職後の平成五年正式にスンーズ の社員となり、常務取締役の肩書きを使用し、資金繰り等を担当してい た。  四 S.I.の経歴等  S.I.(以下「S.」という。)は、東京都港区内のホテルで働いていた 時に知り合ったS.C.から誘われ、昭和五〇年一月ころ、三六歳でスンー ズに入社し、主として国内所有物件のメンテナンス、賃料の収納等に関 する業務を担当していた。 第四 被告人とスンーズとの関係  一 S.C.は、三井信託銀行に対する借入金の返済に追われ、同行から スンーズの所有する香港サンプラザを売却して借入金を返済するよう求 められていたことから、平成三年一〇月ころ知人の不動産業者を通じて 知り合った被告人に対し、香港サンプラザの中で売却のめどがついてい なかったホテル棟(以下「香港ラマダホテル」という。)の売却交渉を 依頼した。  被告人は、いわゆる渉外弁護士とともに香港ラマダホテルの売却交渉 に当たり、平成四年一一月、同ホテルを香港の会社に二一四億円で売却 する契約をまとめたが、その際、三井信託銀行が同ホテルに設定してい た抵当権の効力が什器備品には及ばない旨三井信託銀行側に強力に主張 して同行を説き伏せたことにより、什器備品代に相当する一〇億円を売 却代金の中からスンーズに戻させることに成功した。そのため、S.C.は 被告人の力量を高く評価し、被告人に対する信頼の念を強め、右契約成 立後も、S.N.、I.及びS.を伴い、被告人の事務所を月に二、三回の割合 で訪れては、スンーズの現状を報告し、債権者対策等について、被告人 から指導・助言を受ける間柄となった。  二 スンーズは、被告人に対し、香港ラマダホテル売却の成功報酬な どとして平成三年一二月一〇〇万円、平成四年五月四〇〇万円、同年一 二月二、五〇〇万円及び平成五年二月二、〇〇〇万円の合計五、〇〇〇 万円を支払ったほか、平成六年一月から平成一〇年七月までの間、被告 人に顧問弁護料として月額五万五、〇〇〇円を支払い、さらに、平成六 年一〇月ころから平成九年一二月ころまでの間に、債権者対策について 指導・助言を受けたことの報酬などとして合計四回一、一〇〇万円を支 払った。 第五 犯行に至る経緯及び犯行状況等  一 S.C.は、前記のとおり、海外投資活動を積極的に展開し、平成元 年一月ころには三井信託銀行等からの借入金で香港サンプラザを建設 し、さらに、翌二年二月ころには上海サンプラザの建設に取り掛かっ た。  ところが、同年三月、大蔵省が、各金融機関の不動産業者向け融資の 残高を規制するいわゆる総量規制を同年四月から実施する通達を出した ため、スンーズは国内金融機関から融資を止められ、上海サンプラザの 工事も中断せざるを得なくなり、三井信託銀行からは借入金の返済を強 く迫られる事態となった。  そして、スンーズが三井建設株式会社(以下「三井建設」という。) に振り出していた六億円の小切手が平成三年一一月一三日不渡りとなっ たことから、スンーズは、他の債権者からも借入金の返済を厳しく要求 されるようになった。  二 そのため、S.C.は、被告人に対し、債権者からの強硬な借入金返 済要求に対する対応策を相談し、被告人は、スンーズ所有物件の価格が 将来上がるまで債権者からスンーズの資産や収益を差し押さえられない ようにする必要があるなどと指導した。  また、被告人は、このころS.に指示して、スンーズ所有物件の簿価、 時価、担保設定状況、借入先、収益状況等を記載した物件一覧表を作成 させたほか、平成四年一一月下旬ころ、約三〇件あるスンーズ所有物件 の現況を把握するため、S.N.に案内させて自ら見て回った。  三 スンーズの債権者のうち日興キャピタル株式会社(以下「日興 キャピタル」という。)及び三和ビジネスクレジット株式会社(以下 「三和ビジネスクレジット」という。)は、平成五年一月ころになると 強硬姿勢を強め、三和ビジネスクレジットは、同年二月一二日ころ、ス ンーズが金利の内入れをしなければ抵当物件の賃料を差し押さえる旨通 告してきた。  S.C.は、スンーズが賃料債券の差押えを受け収入源を絶たたれる(マ マ)ことを恐れ、その日のうちにI.らを伴って被告人の事務所を訪れ、 対抗策についての指導を仰いだ。被告人は、その場でS.C.に対し、賃料 債権の差押えを免れる方策として、賃貸人であるスンーズと賃借人であ るテナントとの間にダミー会社を介在させ、賃借人からの賃料振込先を そのダミー会社の銀行口座に振り替える方法を指示し、その理由とし て、三和ビジネスクレジット等の債権者がテナントの賃料を差し押さえ るには支払先を特定する必要があるので、ダミー会社を介在させること により、賃料の支払先をスンーズ社からダミー会社に変えてしまえば、 賃料差押えの効果が及ばないなどと具体的に説明したが、これを聞いた S.C.は、被告人の指示する方策が脱法的な手段であると認識し、その実 行をためらっていた。  四 ところが、三和ビジネスクレジットは、平成五年二月一六日、ス ンーズに対して、「五日以内に延滞元利金を支払わない場合には、期限 の利益を喪失する」旨の内容証明郵便による催告書を送り付け、これを 読んだS.C.は、テナントからの賃料が現実に差し押さえられる事態が切 迫していることに狼狽し、直ちに被告人の事務所あてに右催告書をファ クシミリ送信し、被告人から対抗策についての指示・指導を受けるた め、同月一九日、S.N.、I.及びS.を伴って被告人の事務所を訪れた。被 告人は、S.C.から各債権者による取立てが日ごとに厳しくなっているこ となどの報告を受け、その場で、S.C.に対し、三和ビジネスクレジット 以外の債権者も同じように催告書を送り付けた上で賃料を差押えようと するであろうという当面の見通しを口にした上で、スンーズが生き残る ためには賃借人のテンアントとスンーズとの間にダミー会社を介在さ せ、賃借人からの賃料振込先をダミー会社の銀行口座に振り替える方法 しかないことを改めて強調し、逡巡しているS.C.に対し、急がないと手 遅れになるなどと言って、同人の決断を強く促した。  被告人は、その席で、賃料の振込先を変更するための賃借人あて通知 書の雛形をS.C.に示し、ダミー会社を介在させて賃料振込先を変更する ためにはこのような通知書を賃借人に送ればよいなどと具体的に教える とともに、利用するダミー会社とスンーズ社の間で物件を一括賃貸する 旨の契約書も手抜かりなく作成しておくこと、複数のダミー会社を利用 することなどを指示した。  S.C.は、被告人の指示を受け、このまま手をこまねいていたのでは被 告人の言うとおりスンーズ社がつぶれてしまうとの切羽詰まった思いか ら、被告人の指示する違法な手段に頼るのもやむなしと決意し、その場 で、被告人の指示どおりに賃料隠しを実行する旨を告げ、同席していた S.N.、I.及びS.もS.C.と同様にこの手段を用いてテナントからの賃料を 隠匿することに賛成し、ここに、被告人、S.C.、S.N.、I.及びS.の間 に、債権者からの賃料債権の差押えを免れる目的で、スンーズ所有の建 物の賃借人からの賃料の振込先をダミー会社の口座に変更する方法によ り、スンーズに帰属すべき財産を隠匿することの共謀が成立した。  五 S.N.は、右共謀に基づき、平成五年二月二四日、急きょ、それま で事業活動を行っていなかったエービーシーの名義で第一勧業銀行白金 支店に普通預金口座を新たに開設し、その口座番号をS.に教えた。  S.は、右共謀に基づき、被告人から渡された「賃貸人変更のお知ら せ」と題する通知書の雛形に書かれた文章をそっくりまねて、賃料振込 先をスンーズからエービーシー名義の右普通預金口座に振り替えること を依頼する旨のサンハイツ元麻布の各賃借人あて通知書を作成し、これ を発送した。  その後、S.は、同年三月上旬ころ、住商リース株式会社の一番根抵当 権が設定されていた麻布ガーデンハウスの各賃借人あてにも同様の通知 書を作成して発送し、さらに、スーンズがエービーシーに対し、右の両 物件を賃貸した旨の仮装の賃貸借契約書も作成した。  こうして、被告人は、S.C.らと共謀して、麻布ガーデンハウスの各賃 借人に対し、エービーシーがスンーズから賃貸人の地位を取得したかの ように装い、平成五年三月二四日ころから平成八年八月二三日ころまで の間、八五回にわたり、公訴事実別表一記載のとおり、株式会社ロフト ほか一名の賃借人をして、スンーズに帰属すべき賃料九、九九九万円を エービーシー名義の右普通預金口座に振込入金させ、強制執行を免れる 目的で財産を隠匿した。  六 被告人は、平成五年二月一九日以降も、被告人の事務所におい て、スンーズの債権者対策に関する会合を月に二、三回の割合で開き、 S.C.らから各債権者との交渉状況について逐一報告を受け、必要な指示 を与え、さらに、どのくらいの物件の賃料を振り替えたのか、スンーズ の各所有物件について賃料振込先の振替えが確実に行われているかどう かを折に触れて確かめるなどして、スンーズの経営指導に当たってい た。  また、被告人は、そのような会合の席で、S.C.らから債権者が金利の 内入れを要求していることなどを聞くと、債権者に対する返事をはぐら かして金利の支払に応じないよう債権者対策を指導していた。  七 スンーズは、三和ビジネスクレジットに対する債務を返済せず、 不誠実な態度をとり続けたため、同社は、サンハイツ元麻布に対する強 制執行を申し立て、平成五年一〇月二九日不動産競売開始決定があり、 東京地方裁判所は、同年一一月二日、債権差押命令を発し、翌三日、債 権差押命令正本が当時サンハイツ元麻布四〇二号室に居住していたS.方 にも送達された。  S.C.は、現実に債権差押命令正本が送達されたことを知って不安にな り、同月四、五日ころ、S.N.及びS.とともに被告人の事務所を訪れ、被 告人に相談したが、被告人は、サンハイツ元麻布の賃借人に既に賃貸人 変更の通知書を出しているのであれば心配することはないと説明して S.C.を安心させるとともに、他のスンーズ所有物件に対する債権者から の差押えに備えて、賃料の振込先をスンーズからダミー会社に変更する 手続を急ぐこと、その際には、これまでとは別の銀行口座を使うよう指 示した。  サンハイツ元麻布の賃借人に対する債権差押命令は、被告人が画策し たとおり、スンーズが賃貸人名義をエービーシーに変更していたため、 執行不能に終わった。  八 S.N.は、平成五年一一月四、五日ころに被告人から受けた前記指 示に基づき、同月五日、急きょ、ワイドトレジャー名義で第一勧業銀行 白金視点に普通預金口座を新たに開設した。そして、S.は、そのころ、 日住金の根抵当権が設定されていた白金台サンプラザの各賃借人あて に、前同様に賃料振込先をスンーズからワイドトレジャーに変更する旨 の通知書を作成して発送し、スンーズとワイドトレジャーとの間で白金 台サンプラザについての仮装の賃貸借契約書も作成した。  こうして、被告人は、S.C.らと共謀して、白金台サンプラザの各賃借 人に対し、ワイドトレジャーがスンーズから賃貸人の地位を取得したか のように装い、同年一一月三〇日ころから平成八年九月一〇日ころまで の間、一六四回にわたり、公訴事実別表二記載のとおり、ピア株式会社 ほか四名の賃借人をして、スンーズに帰属すべき賃料合計一億一七五万 七五〇円をワイドトレジャー名義の右普通預金口座に振込入金させ、強 制執行を免れる目的で財産を隠匿した。  また、S.は、白金台サンプラザの賃借人に対する通知書の送付後、日 住金の抵当権が設定されていた野村ビル及び日興キャピタルの抵当権が 設定されていた真下ビルの各賃借人あてにも前同趣旨の通知書を発送し た。  九 被告人は、その後も、被告人の事務所におけるS.C.らとの会合に おいて、スンーズの債権者対策について具体的に指示を与え、平成七年 一月ころになると、各債権者に対する金利内入れの一斉中止の時期を検 討するように指示した。  そして、被告人は、同年一一月六日ころ、被告人の事務所における S.C.らとの会合で、債権者との闘争には少しでも多くの資金を内部に留 保する必要があり、返済をすれば損になる旨説明して、各債権者に対す る金利の内入れの全面中止を指示し、S.C.はこれに従うことをいったん は決意した。  ところが、そのころ、I.が、日住金の関係者から、各金融機関に対す る内入れを全面的に中止するようなことをすれば、近く設立される住管 機構からスンーズが不良貸付先とみなされ、徹底的にマークされる旨忠 告され、その旨の報告を受けた被告人は、やむなく、同年中に日住金に 一〇〇万円を返済し、その後も各月一〇〇万円の返済を行い、その他の 金融機関に対しても再考する旨方針を変更し、S.C.にその旨指示し、同 人もこの方針に従った。  一〇 平成八年五月二七日、桃源社社長が競売妨害事件で検挙され、 マスコミでも広く報道されたが、S.C.は、知人から、賃料の隠匿を継続 しているのであれば警察に逮捕されるかも知れないとの忠告を受け、自 分自身が警察に逮捕されることを恐れて被告人に相談し、被告人がこれ まで行っていた前記の財産隠匿をやめるように指示したため、S.C.は、 同年九月ころ、S.に指示して、スンーズ所有物件の賃借人の賃料振込先 をダミー会社からスンーズに戻し、仮装の賃貸借契約書も破棄した。ま た、被告人は、そのころから、S.C.らに対し、被告人の事務所における 会合の際にI.がその都度被告人の発言内容を書き取っていた会議録を破 棄するように証拠隠滅工作を繰り返し指示し、I.は被告人の指示に従 い、被告人の発言を記載していたメモ類の一部を廃棄した。  一一 被告人は、S.C.らと意思を通じ、平成五年三月ころから平成八 年九月ころまでの間、スンーズ所有物件のうち、優良物件を中心にした 一三物件について、賃料の振込先をエービーシー及びワイドトレジャー 名義の各普通預金口座に振り替え、合計八億四、五五四万五、九六〇円 の賃料を隠匿していたが、これらの賃料収入等はいずれもスンーズの収 入として経費処理されるとともに、スンーズの経費として費消された。 第六 その他情状等 (掲載者註:安田さん以外の人名はイニシアルにしました)